2019年11月08日

ローテンベルガーのリートアルバム

アンネリーゼ・ローテンベルガーは1926年生まれ、2010年に83歳で亡くなったドイツのソプラノ。戦後ヨーロッパの音楽界の黄金期に活躍した名歌手の1人で、1988年という早い段階で引退してしまったので、円熟を聴くことはできなかったが、EMIに残された数々のオペレッタの録音は現在も世界中で愛聴され続けている。
歌だけではなくTV出演にも積極的で、数本のレギュラー番組を持っていた。それらはどれも明るく流麗なナレーションが心地よく、音楽の楽しさを伝えていたという。フィルムによるTV放送という性格上、残っているものには限りがあり、全貌は知り様がないのだが・・・それでも個人が録画したいくつか映像をYoutube等で楽しむことができる。

ローテンベルガーはドイツオペラとオペレッタ出演に歌手活動の主軸があった。
しかし、リートリサイタルも世界各地で行っていて、評価も高かった。
ただ、製品化されたリサイタル盤となると決して多いとはいえない。
本人が内省的な曲より、明るいものを好んだこと、そして同時期に活動する同じ声域の歌手が多かった事もあるだろう。1910年代生まれのシュヴァルツコプフ、30年代の生まれのマティスやヤノヴィッツ、アメリングの間を繋ぐ世代のトップ的存在であり、リートの復興を支えた1人として、もっと評価されても良いと思う。
彼女の歌をあらわすキーワードは「歌う歓び」と「声の温かさ」。
残された録音を聴くと、音楽的にも、そこにあたる姿勢も、プライに近いところがあるのかな?と思えた。
理屈をこえた部分に存在している「歌」。
特に伴奏の音量と張り合う必要のないピアノリートからは、彼女の自然な声の表情を聴きとることができる。
オーケストラ相手では、時に気張りすぎて幾分歳より老けて聴こえることもあったが、ピアノリートにその心配はない。可憐さと深さがいいバランスで響いてくる。

ro155.jpg「ローテンベルガー名唱集」
   シューベルト:岩の上の羊飼い
          流れの上で
   マイアベーア:羊飼いの歌
   シュポア:6つのドイツ語歌曲

アンネリーゼ・ローテンベルガー(ソプラノ)
ギュンター・ヴァイセンボルン(ピアノ)
ゲルド・シュタルケ(クラリネット)
ノルベルト・ハウプトマン(ホルン)
(EMI LP 国内盤)



この盤に集められた曲は、クラリネットorホルンの助奏付のリートで、表現上は純粋なピアノリートより歌謡的で、なおかつ外に向かうエネルギーを強く持つもの。
A面にはマイアベーアを挟んで、シューベルトの名作2曲が置かれている。
最初の「岩の上の羊飼い」は名盤名演奏が多い曲なので、何かと不利な部分がありそうだ。
だが、ホルン付の「流れの上で」は女声によるものは珍しい。少し強めの声で、決然とした表現をとっているので、この曲がベートーヴェンへのオマージュ(旋律線が「英雄」の第2楽章をモチーフとしている)であることがよくわかる。
アメリングのもの(CBS)より寧ろ、適正かもしれないと思えた。
B面はシュポアの「6つのドイツ語歌曲」。
シュポアは言う。「テキストを真剣に受け取るなら、大きな困難を持っている。しかし、声がクラリネットと競うことができるほど美しければ、心を奪うような効果をあげることができる・・・」
そんな風に、作曲者自身が外面的な美の重要性を宣言してしまったサロン風の軽さのある「歌謡」なのだが、まさにそのことがディースカウやシュヴァルツコプフをこれらの作品から遠ざけた。
(逆にプライは積極的にステージに上げていたというのが面白い)
ローテンベルガーはクラリネットと共に歌い競い、この作品の楽しさを伝えている。
どの曲にも余計な装飾は一切いれず、素直に歌っている。音楽に「陽」と「陰」の両面があるとすれば、彼女は常に「陽」を意識して組み立てている。
聴き手も素直にその喜びに浸るのが正解だろう。


posted by あひる★ぼんび at 23:49| Comment(2) | 音楽