なんて早い!間もなくクリスマスだ。そしてすぐにお正月がやってくる。
「キリスト教徒でもないのに」とわざわざ言うのも野暮な程、クリスマスはすっかり国民的行事になったが、元来の文化的背景の不足からか、あきらかに「クリスマス熱」は減速している。
街の大手スーパーの店頭はすでにお正月用品やお飾りのほうに力を入れているようだ。
だがまあ、幸せイベントは多ければ多いほど良い。自分はいつもそう思っている。
だからハロウィンもサンクスギビングも、クリスマスもOKだ^^
クリスマスが近づくと、それこそ「キリスト教徒でもないのに」キリスト生誕関係の音楽が聴きたくなる。
僕自身はアメリカのクリスマスソングは昔から「鑑賞材料」にしてこなかったので、古いヨーロッパの音楽や著名な作曲家の生誕祭向けのミサ曲、オラトリオを聴く。
そんな中の一つがこれだ。
ハインリヒ・フォン・ヘルツォーゲンベルクの「キリストの誕生」というオラトリオ。
ヘルツォーゲンベルク:「キリストの誕生」op90
レジーナ・シューデル(ソプラノ)
アンケ・エガー(アルト)ペーター・マウス(テノール)
エルンスト=ゲロルト・シュラム(バス)
ルドルフ・ハイネマン、ミヒャエル・ロッベレン(オルガン)
ベルリン芸術大学室内合唱団 ベルリン州立大聖堂合唱団
オリオルアンサンブル
クリスティアン・グルーベ(指揮)
(ヘンスラー 2枚組 ドイツ輸入盤)ハインリヒ・ピコ・ド・ペカドゥク・フライヘル・フォン・ヘルツォーゲンベルク。
下を噛みそうな奇妙な名だが、フランス貴族の末裔とのこと。
つまり「公爵山支配のペカドュク男爵家ピコのハインリヒ」さん^^;
(どうでもいいことだが、いつもヨーロッパ貴族のフルネームをおぼえる時はこんな記憶変換をしている)
閑話休題。
ヘルツォーゲンベルクは1843年グラーツに生まれ、1900年ヴィースバーデンで没したオーストリアの作曲家で、出発はヴァグネリアンながら、ブラームス信奉者に転じ、またブラームスの弟子を娶り、生涯ブラームスと深い親交を持った。
作品も複数の交響曲から大規模声楽作品まで決して少なくないが、いわば「忘れられた作曲家」の範疇であり、wikiあたりでも「博学ではあったが限られた才能の作曲家」などとネガティヴに定義されていて気の毒である。
才能の値踏みがどういう判断基準からなのか知らないが、誰も突っ込まない。ああいうネガティヴな紹介がいつの間にか世間を席巻してしまうこともあるのだ。
それより近年演奏・録音がやっと増えてきたところなので、それを聴いた若き世代から魅力再発見と復権が図れればいいとも思う。
さて、この「キリストの誕生」は1894年に完成したop.90という作品番号を持つ出版名称「独唱・混声合唱・少年合唱とハルモニウム、弦楽器、オーボエ、会衆歌唱、オルガンのためのキリストの誕生」というオラトリオ。
大規模な、というか大規模な演奏が可能な全3部80分を越える大作だ。
聴こえてくる音の並びはおとなしく、ブラームス派であることも考慮されているのか、この録音の場合は比較的小さめの編成になっている。
じゃあ、つまらない?
いえいえ、なんと親密で優しい表情の音楽だろう。だが、実際は、対位法をはじめとするバッハ研究の成果を結集した構成の厳格さで、むしろブラームスよりも古典的な手法で音楽を作り上げているのだ。
最初と最後のオルガンは、複雑で細かい音の並びから生じる不穏な響きが混じるが、以後は全体的に平和な音楽になっている。弦に乗って奏でられるオーボエのメロディの美しいこと!古いコラール由来となる無理のないメロディにあふれ、バッハのクリスマス・オラトリオより手軽だし、楽譜さえ普及すればもっと演奏機会も増えそうな音楽だと思う。
あまり演奏されない曲であるというのが信じられない。
「苦悩は人を目覚めさせ、導びいてくれる誠実な友人である」
ヘルツォーゲンベルクは1891年に妻を失ったあとの失意を宗教的に昇華しようとしていたようだが、神経系の病や目の疾患も起こっていて、楽な状況ではなかったようだ。
信奉するブラームスへの書簡にもその辺の記録がある。ただ、基本的に「非宗教的」であろうとしたブラームスとその部分に関してのみは、どの程度の深さで理解しあえていたのかはわからない。書簡を見る限り、ヘルツォーゲンベルクがこの曲に言及しても、ブラームスは特別な関心を寄せなかったようであるし。
さて、この演奏、厳格に書かれたこの音楽に対して、全体に適度にラフである。
矛盾するようだが、無理にアンサンブルを締め上げていないことが、ここでは良い方向となった。
1988年の録音。ベルリン・キリスト教会という大教会でのものにもかかわらず、大聖堂の空気感はなく、かといってコンサートホールの豊かさもなく・・・あるのは田舎の小さな教会のミサのような温度感と、しみじみとした敬虔さ。ちょっと独特のコブシのテノールを筆頭に、個性的ながらはりきりすぎない独唱者たちもいい味を出している。
「掴み」のオルガンをもっと綺麗に録ってほしいとか、控えめ過ぎる器楽と逆に時々元気すぎる合唱団のバランスには改善点もありそうだが、ほとんど未知のこの曲の魅力を伝えている。
冬の寒空に煌く星を見つけた、そんな気持ちになる名曲、名演だと思う。
posted by あひる★ぼんび at 23:26|
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